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天下の茶人、千利休が遺した「四規七則」「利休道家」とは?(後編)

とにかくに服の加減を覚ゆるは濃茶度々点てて能く知れ

濃茶の練り(服の)加減を知るためには、何度も経験して感覚やコツを体で覚える必要があります。 言って頭で習得できるほど簡単なものではありません。

よそにては茶を汲みて後茶杓にて茶碗の縁を心して打て

茶を点てるときは「茶杓で粉をすくい、茶碗の縁(ふち)で茶杓を軽く叩いて粉を落とす」という手順ですが、しっかり粉を落とそうとして強く叩くと茶杓が折れたり茶碗の縁が割れたりします。

よそにて(他人の道具で)茶を点てる際は、とくに用心して扱わないといけません。もちろん、自分の道具を扱うときにも同じ。丁寧に、心を込めて、道具への敬いを忘れずに。

焚え残る白灰あらば捨て置きてまた余の炭を置くものぞかし

茶釜で湯を沸かす際、茶道では「枝炭」を用いて火を起こしやすくしますが、燃え残った枝炭が囲炉裏にあっても取り除いてはいけません。そのまま置いておき、それも景色の一つとして楽しむのです。

枝炭・・・ツツジなど細い木の枝でつくった炭

よそなどへ花を贈らば其花は開きすぎしはやらぬものなり

誰かに花を贈るときは、開花していない花をプレゼントしなさい。咲き切った花は、すぐに枯れてしまいます。もらった花を生けてから数日後に咲くくらいが丁度いいのです。

燈火に油を注がば多く注げ客にあかざる心得と知れ

客へのもてなしの心得。燈火を暗くしては客が居辛くなるので配慮しなさい。

時ならず客の来らば点前をば心は草にわざをつつしめ

不意に客が来ても、見栄を張らず普段通りに茶を点てるのが好ましいです。贅沢な振舞いや大げさな対応でもてなすと、「手間をかけさせて申し訳ないな・・・」と相手に気を遣わせてしまいます。

とはいえ、手抜きのもてなしや粗末な扱いをしては失礼です。気持ちを込めて丁寧に茶を点て、もてなしは謹んで(控えめに)行い、客に気を遣わせないように接するのが“ちょうど良い加減”と言えます。

花見よりかへりの人に茶の湯せば花鳥の絵をも花も置くまじ

花見の帰りに立ち寄った客へ茶を点てるときは、鳥が描いてある掛軸や生け花を飾ったりするのは無神経です。花見の情景が記憶から薄れてしまい、思い出を奪ってしまうことになります。

右の手を扱ふ時はわが心左の肩にありと知るべし

右手で道具を扱うときには左手の動作が疎かになるため、右手を動かすときは左の肩にも意識を向けなさい。そうすることで体のバランスがとれ、一つ一つの動作が美しく繊細に見えます。

ただし、あまり意識し過ぎると不自然な動きに見えてしまって窮屈な印象になるので、自然な動作ができるように日頃から意識しながら体に覚えさせるようにしましょう。

点前には重きを軽く軽きおば重く扱ふあぢわいを知れ

重いものは軽く見えるように持ち、反対に、茶筅のような軽いものは高価な骨とう品を持つくらいの気持ちで丁寧に扱うのです。所作に強弱が生まれると、点前に味わいがでてきます。

なまるとは手続き早く又遅く所々のそろはぬを言う

「なまる」とは、リズムが一定ではなく無駄な動きが多いこと。茶を点てるときに余計なところで速くなったり遅くなったりすると、むらのある点前になって茶の仕上がりも所作の見た目も悪くなります。

 稽古とは一より習ひ十を知り十よりかえるもとのその一

一から順に十まで習ったら、また一に戻り、二、三、四・・・と順を追って十まで進み、繰り返し復習しながら技や経験を得るのが稽古です。一度やったからといって終わりではありません。

つまり、稽古はエンドレスなのです。十を知り、一に戻らぬ人は、それ以上の進歩は望めません。

習ひをばちりあくたぞと思へかし書物は反古腰張にせよ

習ったことを書き残し、それを参考にしているうちは未熟者のまま。茶道は「口伝」と言うように、教えや習いを言葉で伝えることが前提です。書くよりも話を聞き、目に焼き付け、とことん体に刷り込むのです。

水と湯と茶巾茶筅に箸楊枝柄杓と心あたらしきよし

水指の水、茶釜の湯、茶碗を拭く布、お箸や楊枝、柄杓は茶会のたびに新品を用意し、目につきにくく気づかれにくいものであっても、それが客人に対する敬意であり、心配りというものです。

そして、道具だけではなく、「心」も新しくして「もてなす」ことが大切。人と接するときは常に初見のような礼儀正しさと敬いの心をもち、身を引き締めて

茶はさびて心はあつくもてなせよ道具はいつも有合にせよ

茶は素朴でいいし、道具は見栄を張らずに持っているものでかまいません。もっとも大切なのは、真心を込めて客人を迎えること。目に見える贅沢よりも、心に安らぎを与えることが最高のもてなしです。

背伸びして高価な茶碗や道具を揃えたり、格好つけて茶を点てたりする必要はなく、気持ちを整え、自分の身の丈に合った振る舞いでもてなしましょう。

そして、「あれも、これも」と道具を欲しがったり、コレクションするために道具を買ったりせず、「すでに持っているもの」を有効的に活用し、「どのように見せるか」を工夫しながら考えなければなりません。

つまり、もてなしの優先順位としては、一に心、二に点前、三が道具となります。茶碗や道具で興味をひくのではなく、「心はあつく(心に重きを置いて)もてなすことが大切」というわけです。

釜一つあれば茶の湯はなるものを数の道具をもつは愚かな

「釜一つあれば茶道ができる」というのは極端な例えですが、必要最低限の道具があれば茶は点てられるので、道具を多く揃えるのは私欲を満たすための愚かな行いです。

茶は「心で点てる」ものであり、道具で点てるものではありません。もてなしの優先順位は一に心、二に点前、三が道具。この精神を忘れずに「心」で茶を点て、「心」でもてなすことが茶道の心得です。

かず多くある道具をも押し隠し無きがまねする人も愚かな

道具は、使ってこそ価値があります。欲や見栄で道具を集めるのは無駄なこと。道具は使うことで「美」が生まれるのに、傷つけたくないからと鑑賞用にしたり、もったいないという理由で使わないのは愚かです。

茶の湯とはただ湯を沸かし茶を点てて飲むばかりなる事と知るべし

茶道は、湯を沸かし、茶を点て、それを飲むだけのこと。当たり前のように聞こえるでしょうが、当たり前のことを当たり前にやる(そつなくこなす)のは難しいものです。

ある日、弟子が「茶道の極意を教えてほしい」と利休に尋ねると、利休は、「夏は涼しく冬は暖かく、炭は湯の沸くように、茶は飲みやすいように」(要するに「心を込めて茶を点てなさい」)そう答えました。

これを聞いた弟子が、「そんなことくらい私でも知っています」と言い返すと、利休は「そのような茶会ができるなら私があなたの弟子になりましょう」と答え返したそうです。

人を「もてなす」というのは、言葉で表現できても体現するのは難しい、理屈では分かっていても実際やってみると思い通りにいかない、そういったエピソードです。

※そつなくこなす・・・行き届いている。無駄がない。段取りが良い

規矩作法守りつくして破るとも離るるとても本を忘るな

新しい道を切り開くとき、どんな選択をするにしても「本質」を忘れてはいけません。従来の方法や伝統など決められたことを忠実に守るだけでは新しい道は切り開けないでしょう。

ルールや伝統を破って新しい道を切り開いてもよいのです。ただし、本質から外れてしまうと「でたらめ」や「ごまかし」になってしまいます。基本を見失わず、本質を忘れずに、それが大前提です。

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