直盛の覚悟
画像:坂崎直盛の居城「津和野城」跡
千姫の嫁入りが行われる日、異常なまでの警護が配備されました。なぜなら、直盛が参列するかもしれないという噂が立っていたんですね。
すると噂通り直盛は現れ、一目散に千姫のもとへ向かおうとしました。警護が必死に止めようとしますが、めちゃくちゃ強い男なので簡単には足止めできません。
それでも誰一人として直盛を斬ることはありませんでした。みんな、事情を知っていたからです。
直盛は目に涙を浮かばせながら千姫に訴えかけます。
「一目でいいので死ぬ前に顔を見せてください」と。
これを聞いた千姫は「あんな恐ろしい顔は見たくない。早く帰ってもらえ」と対面を拒否。
それでも諦めない直盛は、ついに強行突破しようとしました。直盛が本気になったら、警護レベルが敵う相手ではありません。
そこへ最強の剣士・柳生宗矩が登場し、直盛に問いかけます。
「死ぬ準備はできているか」と。
直盛は宗矩を見て穏やかな表情を浮かべ、微笑みました。こいつに斬られるなら悔いはない・・・そう覚悟を決めたのでしょう。
二人は刀を抜き、死闘の末、直盛は討ち死にを遂げます。
血を流し横たわる直盛の遺体を宗矩は抱きかかえ、「さかざき、さかざきー」と大声で涙を流したとか。
この光景を見た周囲の人たちは衝撃を受けました。普段の宗矩は寡黙で冷静沈着、いかなるときも無表情で冷徹な男として有名だったからです。
戦国の乱世を共に生き、唯一、自分と互角に渡り合える直盛は、宗矩にとって敬意を払うに値する人物であり、友と呼べる相手だったのかもしれません。
儚く散った直盛の片思い
画像:柳生笠
直盛の死後、宗矩は秀忠の許可を得て直盛の家紋を受け継ぎました。
一説によると、それが「柳生笠」の由来とされていますが、直盛の最期については諸説あり、今回ご紹介した逸話の真意も定かではありません。
・千姫の結婚を妨害することを知った「何者か」が酔って寝ている直盛を暗殺した説
・立花宗茂が柳生宗矩に直盛の説得を促し、宗矩の諫言に応じて直盛が自害した説
いずれにしても直盛が大坂夏の陣で千姫を救出し、恋におち、本多忠刻との結婚が決まったあと千姫に会おうとしたのは間違いないようです(千姫の誘拐を企んでいたという説もありますが)。
逸話には美談がつきものですが、あえて今回は美談を採用しました。だって切なすぎる恋バナなんですから、せめてもの"供養"に美談でもいいじゃないですか。
真意は、そっとしておきましょう・・・。