当日の議事録
●西村栄一
では、次の質問に移ります。
過日総理大臣が国際情勢は今楽観すべき状態にあるという施政演説をなさったのであります。私はこの政治感覚を本当に日本の施政の上に適用されるかどうかということを考えますと、これは明確にしておかなければならぬと思うのでありますが、総理大臣が過日の施政演説で述べられました国際情勢は楽観すべきであるという根拠は一体どこにお求めになりましたか。
●吉田茂
私は国際情勢は楽観すべしと述べたのではなくして、戦争の危険が遠ざかりつつあるということをイギリスの総理大臣、あるいはアイゼンハウアー大統領自身も言われたと思いますが、英米の首脳者が言われておるから、私もそう信じたのであります。
これは最も戦争か平和かという衝に当つておる当局者の言うことであつて、相当な根拠があって言っておることであろうと考えましたがゆえに、戦争の危険は遠のきつつある。こう私は信ずる。こう申し上げたのであります。
●西村栄一
私は日本国総理大臣に国際情勢の見通しを承っておる。イギリス総理大臣の翻訳を承っておるのではない。あなたの国際情勢を楽観すべきであるという根拠は、イギリス総理大臣チャーチルの演説においてとられたというのであります。
アイゼンハウアー元帥は就任以来楽観説を言っておりません。同時にアイゼンハウアー元帥が大統領に就任いたしまして以来、公式声明は国際情勢の緊迫を力説しておるのであります。
同時にアイゼンハウアー元帥が当選して就任いたしまして以来、チャーチルの言動はかわって参りました。
チャーチルはアイゼンハウアーが大統領に就任いたしまして以来、国際関係は楽観すべきであるということはどこにも言っておりません。同時に私はここに問題になるのは、なるぼどヨーロツパの情勢は楽観すべく、一応の危機は緩和したかもしれません。
しかしながらその危機の険悪な焦点は朝鮮に移って来て、世界の危機は朝鮮にその焦点がしぼられて来ておる。そこで私は大臣にお尋ねしたいのであります。
イギリスの総理大臣の楽観論あるいは外国の総理大臣の楽観論ではなしに、ヨーロッパは緩和したが、朝鮮の問題を中心にいたしまして、風雲は極東に移りつつあるということをすなおに考えて、これに対して日本国家としては一体どうするのであるかということを、一九五三年の初頭に際して日本の総理大臣に日本国民は問わんとしておるのであります。
私は現国際情勢というものを素直にご覧になって、しかもわが隣国朝鮮に国際危機の焦点が移っておる、その中に立って一体われわれはどうするのだということを、日本の総理大臣に国民が問おうとしておるのでありますから、私はこれに対して、やはり日本の総理大臣としての国際情勢の見通しとその対策をお述べになることが当然ではないか、こう思うのであります。
●吉田茂
ただいまの私の答弁は、日本の総理大臣として御答弁いたしたのであります。
私は確信するのであります。
●西村栄一
総理大臣は興奮しない方がよろしい。別に興奮する必要はないじゃないか。
議事録では言葉を伏せているが、ここで吉田茂が「無礼なことを言うな」と声を荒げる。
●西村栄一
国際情勢の見通しについてイギリス、チャーチルの言説を引用しないで翻訳した言葉を述べずに、日本の総理大臣として答弁しなさいということが何が無礼だ。答弁できないのか、君は。
そして、これに対して吉田茂が「無礼じゃないか」と声を荒げる。
ここで、西村栄一に向かって吉田茂は”渾身”の「バカヤロー」を吐いた。
画像:©ワールドプロレスリング
●西村栄一
何がバカヤローだ。バカヤローとは何事だ。これを取消さない限りは、私はお聞きしない。議員をつかまえて、国民の代表をつかまえて、バカヤローとは何事だ。取消しなさい。私は今日は静かに言説を聞いている。何を私の言うことに興奮する必要がある。
●吉田茂
私の言葉は不穏当でありましたから、はっきり取消します。
●西村栄一
年七十過ぎて、一国の総理大臣たるものが取消された上からは私は追究しません。しかしながら意見が対立したからというて、議員の発言に対してバカヤローとか無礼だとか、東條内閣以上のファッショ的思想があるからだ。静かに答弁しなさい。
※ファッショ的思想・・・ファッショにはファシストという意味もあり、攻撃的な思想をもつ政治団体を指す。
参考:第015回国会予算委員会 第31号(国会議事録検索システム)
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