戦国武将の"逸話"を「現代語訳・名将言行録」で読む
画像:岩波文庫
史料は、当時の情勢や出来事を記した文献は先人たちが遺した貴重な遺産です。時代が古くなれば、なおさら貴重な情報源となります。たとえば、戦国時代なら軍記物語や家譜などの記録書が該当するでしょう。
それらの史料は国立国会図書館などで確認できますが、とはいえ、当時の言葉は専門家でも解読が難しく、すらすら読めるようなものではありません。そこで役立つのが、現代語に翻訳された新書です。
今回ご紹介する「名将言行録」も戦国時代の出来事を知る史料の一つですが、名将言行録に関する現代語訳の新書が数多く出版されています。ぜひ、参考にしてみてはいかがでしょうか。
新書とは?
新書とは、文庫版A6サイズよりも少し縦長の本の総称で、1935年7月のイギリス・ペリカンブックスが発祥です。日本では岩波書店が先行的に取り入れ、文庫本のA6判とB6判に対して新書はB40判と呼ばれることもあります。
200ページ~400ページと幅広く、手ごろな値段で販売されたこともあり、出版物の不況が深刻化していた2000年あたりから各出版社が新書を発刊し、一時期は「新書戦争」と呼ばれるほど新書の発刊が目立ちました。
その頃の新書は現在でも市場に流通しており、品切れ・絶版を含め、1万点以上あると言われており、主に新書は特定の知識を養うための文献であることから"知の宝箱"として多くの人々に親しまれています。
名将言行録とは?
画像:明治43年発刊の岡谷繁実・著「名将言行録」(祐徳稲荷神社)
戦国時代の史料として、当時の人が記した報告書や日記(実録)、軍記物語や覚書(聞書)といった代表的な文献が58点(独自調査※)ほどありますが、それらを基に明治2年に完成した文献が「名将言行録」です。
※(日記・実録書19点、軍記30点、覚書7点、江戸時代の編纂書2点)
名将言行録には、総勢192人の武将に関する人物伝が記されており、江戸時代の末期(幕末)に館林藩士の岡谷繁実が安政元年~明治2年(1854年~1869年)まで15年の歳月を費やして完成させました。
武将のほかに江戸時代中期の大名も含まれていますが、名将言行録の大部分は戦国武将が占めており、武将や大名の言動(信ぴょう性は諸説あり)が記されたエピソード全70巻で構成された文献となります。
たとえば、武田信玄や上杉謙信、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康や伊達政宗など、天下を競い合った人物や、黒田官兵衛や竹中半兵衛、真田幸村や直江兼続など主君を支えた家臣らまで、数多くの武将が記録されています。
また、名将言行録は武将や大名の言動を知る貴重な史料であることから、映画やドラマ、小説やマンガなど創作物の参考文献として取り扱われることも多いです。
そして、一般的に出回っている逸話や通説は、ほぼ、名将言行録が情報元になっていると言っても大げさではないでしょう。つまり、著者の岡谷繁実は、戦国武将に関する逸話の発信源というわけです。
ただし、史料といっても信ぴょう性の真意が定かでない点も多く、幕末に作成されていることから入念な調査や検証を行ったうえで編纂された文献ではないため、フィクションが散りばめられている可能性が高いとされています。
とはいえ、歴史をたどるにあたって貴重な史料であることは確かでしょう。また、違った観点で見ると、人生の教訓や人間関係や仕事などにも生かせるようなヒントが名将言行録には詰まっています。
気になる武将の足跡をたどるツールとしても名将言行録は一見する価値がありますね。名将言行録に限らず、現代語に翻訳された史料が多様に発刊されているので、ぜひ検索してみてはいかがでしょうか。
現代語・訳「名将言行録」
多数の出版社から現代語訳の名将言行録が発売されていますが、なかには個性的な名将言行録もあり、正統派から変わり種まで自分に合ったものを見つけるといいかもしれません。
また、表現や言葉選びも異なってくるので、著者に応じた受け取り方の違いなども見比べると面白いです。
現代語訳「名将言行録」 上巻・中巻・下巻
著:岡谷繁実 編訳:北小路健・中沢恵子
画像:教育社新書
名将言行録 現代語訳
編訳:北小路健・中沢恵子
画像:講談社学術文庫