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天下の茶人、千利休が遺した「四規七則」「利休道家」とは?(前編)

天下の茶人、千利休が遺した「四規七則」「利休道家」とは?(前編)


画像:千利休像(長谷川等伯)

刀や城よりも茶器(茶を飲むための碗)が武将のステータスと言われた戦国時代、織田信長や豊臣秀吉に茶の道を施し、天下の茶人として高名を築いた千利休(せんのりきゅう)。

秀吉を激怒させたことが発端で京都の利休聚楽屋敷にて切腹となりますが、死刑の理由について明確なことは分かっていません。晩年の秀吉は、利休を死に追いやったことを深く後悔していたそうです。

利休は茶の名手でしたが、茶道を通じて作法や侘び寂び(わびさび)の心を追求した人物としても知られており、その教えが「四規七則」「利休道家(利休百首)」となって語り継がれています。

  四規の心構え

もてなしの心得を表す「利休七則」と茶道の精神を集約した「四規」を合わせ「四規七則(しきしちそく)」と言いますが、四規とは、和敬清寂(わけいせいじゃく)の理念に基づいた“和の心”になります。

<和>
和やかな心で構え、調和を意識した言動を常に意識する

<敬>
人に対してだけでなく、言葉や道具、空間や時間など、すべてに敬う気持ちをもつ

<清>
目に見えることを清らかにすることで心も清らかになる、そうして品行方正は保たれる

<寂>
心静かに動じず分け隔てなく受け入れる心の広さ(懐の深さ)

調和、敬意、品行方正、心穏やかに、この和敬清寂の精神が四規であり、利休が説く作法や茶道の心構えです。茶道に限らず、生き方や人との接し方を見直す際の、よい教訓になるのではないでしょうか。

  利休七則の心得


画像:有楽苑内の茶室 国宝「如庵」(愛知県犬山市)

利休七則とは、茶道の心構えである「おもてなしの心」について説いた七つの心得です。利休の教えを記した「南方録」には、「利休七則」にまつわる次のような逸話が残されています。

弟子が「茶の湯(茶道)の極意を教えてほしい」と利休に尋ねると、利休は、「夏は涼しく冬は暖かく、炭は湯の沸くように、茶は飲みやすいように」そう答えました。

これを聞いた弟子は、「そんなことくらい私でも知っています」と言い返しましたが、利休は「そのような茶会ができるなら私があなたの弟子になりましょう」と答え返したそうです。

人を「もてなす」というのは、言葉で表現できても体現するのは難しい、理屈では分かっていても実際やってみると思い通りにいかない、そういったエピソードです。

  一則 茶は服のよきように点て(心を込める)

「服」は「飲む」、「よきように」とは「良いように」という意味。「点(た)てる」とは、抹茶に湯を注ぎ茶筅(ちゃせん)で泡立てること。「飲む人にとって良い加減の茶を点てなさい」という捉え方ができます。

自分が理想とする茶を相手に押し付けるのではなく、飲む人の気持ちになって茶を点てることが茶道における「もてなし」の根本であり、「気配りをもって接しなさい」という利休の教えです。

基本的な技術は当然ですが、「技や知識に満足せず相手を意識した点前(てまえ)が大切」と利休は言っており、それは「心を込める」という意味につながります。

※点前(または、お点前)・・・お茶を点てること

  二則 炭は湯の沸くように置き(本質を見極める)


画像:茶の湯炭「茶炭」(株式会社ぼこたん)

茶道では湯を沸かす火加減、湯の熱さが肝心と言います。湯が適温でなければ茶の仕上がりが雑になり、上手く泡が立たないことから、湯を沸かすときの火加減は大切なポイントです。

適した湯加減になると茶釜(湯を沸かす釜)からシューシューと音が鳴り、松の木の林を風が吹き抜ける音に例えて“松風”と呼ぶそうです。つまり、松風が鳴れば良い湯加減という合図。

そして、この湯加減を保つためには炭(茶炭)の置き方が重要で、客が席に着いている間は炭を動かすことが許されず、席を離れるまで火の調節は一切できません。

ただ火を起こすだけでなく、沸かす前に炭の置き方を考え、湯を適温に保つ必要があるのです。炭は点前の土台になる要素で、茶を点てるうえで要点になります。

好ましい結果へ導くには手抜きせず、準備を怠らないことが大切というわけです。また、「物事の本質を見極め要点を捉えなさい」という利休の教えにもつながります。

  三則 花は野にあるように生け(尊び敬う心)


画像:2014年いけばな作品集( 紫光会 中嶋皐月)

茶室に添える花は、「野に咲いているように生けなさい」と利休は説いています。花が「咲く」「散る」という生命の本質を忘れず、装飾ではなく自然体の美しさを引き出すことが利休の重んじる詫び寂びの精神。

そして、人それぞれ個性や人格が違うように花も二度と同じ花は咲かないし、花も人も「一期一会」の精神で向き合い、出会いを尊ぶ気持ちを忘れてはいけない、それが利休の説く“出逢い”です。

一日、一時間、一分、一秒、その瞬間を過ぎれば二度と戻りません。花も切り取ってしまえば、二度と元には戻せないわけです。だからこそ、「野に咲いているような本来の姿で生ける」ことが大切なんですね。

たとえば、野菜だって土を洗い流して皮をむいて切って、手間をかけなければ人前に出せません。「ありのまま」と「自然体を引き出す」ことでは意味が全く異なります。

ありのままは、土のついた野菜を洗わずに食べるのと同じ。本来の状態を尊重しながら特徴や魅力を上手く引き出すことが、その命を尊び敬うことにつながるという利休の教えです。

  四則 夏は涼しく冬暖かに(季節との調和)


画像:gatag.net

もてなしの気配りとして、「心地よい空間を提供する」というのも利休の教えです。風情が生け花や窓から見える自然的な景観だとすれば、風流は目や耳、肌で感じる上品な趣(趣向)と考えられます。

心地よく過ごしてもらうためには「室温」に配慮することも気配りの一つで、利休の時代にエアコンはありませんし、その時々の季節に応じた様々な工夫を施し客人をもてなしました。

夏は打ち水で「涼(涼しさ)」を演出したり平たい茶碗で熱を逃がしたり、冬は温かい茶菓子で「暖(暖かみ)」を誘ったり筒状の茶碗で熱を保ったり、客人が暑さ寒さを紛らわせるよう工夫したそうです。

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