開戦の原因になった「ハルノート」とは?
画像:零式艦上戦闘機「ゼロ戦」(戦後-太平洋戦争の歴史)
アメリカの日本に対する経済制裁が決定する前、「ハルノート」がアメリカ政府から日本政府へ送られている。ハルノートとは、日本への要求が記された公文書。現代で言う「最終警告」にあたる注意文書である。
当時、中国と戦争していた日本は1939年の時点で石油の90%をアメリカから輸入していた状況。
1940年には中国との戦争も少し落ち着いていたので77%まで減少しているが、日本は自国で石油を調達できず大半をアメリカから輸入していた状況だったのだ。
1935年・・・輸入量345万キロリットル。うち、アメリカからの輸入量は231万キロリットル(67%)
1937年・・・輸入量477万キロリットル。うち、アメリカからの輸入量は353万キロリットル(74%)
1939年・・・輸入量494万キロリットル。うち、アメリカからの輸入量は445万キロリットル(90%)
そんな矢先、日本はドイツとイタリアとの三ヵ国で「日独伊三国軍事同盟」を結び、当時のドイツとイタリアはイギリスと敵対しており、そのイギリスをバックアップしていたのはアメリカだった。
アメリカは日本に対して「その同盟は何のつもり?うちがイギリスを支援していると分かってやったの?そんなことするなら今後は日本に石油を入れないよ」などの忠告を日本に突き付ける。
画像:前列中央-東条英機首相1941/10/18首相官邸にて(朝日新聞社)
この忠告に慌てた日本は、内閣総理大臣の東條英機が1941年4月~11月末にかけて石油の輸出を求める交渉を開始する。歴史の教科書で習う「日米交渉」である。
東條は「ドイツとイタリアVSイギリスの戦争に日本は関与しないし参加しない」「中国から一部の日本軍を撤退させる」など提示してアメリカに交渉するが、もちろん要求は通らない。
このときアメリカは、諜報員(スパイ)に探らせて日本大使館の通信内容をゲットする。その通知を見たアメリカは「日本政府が中国との開戦に向けて準備している」と解釈してしまい、怒る。
しかし、アメリカの解釈は誤解だった。1941年11月26日にアメリカ政府のコーデル・ハル国務長官が日本政府へ最終通告の要求書を提出する。これが「ハルノート」である。
画像:コーデル・ハル(HARRS&EWING)
ハルさんが出したノート(通告書)だからハルノート、というわけだ。日本とアメリカの新たな経済関係を示した内容が多かったが、注目すべきはインドと中国からの全軍撤退。
中国大陸とフランス領土のインドネシアでウロウロしている日本軍を全撤退させることを要求され、この要求を日本は拒んだ。だったら石油は輸入しない、とアメリカも譲歩しなかった。
初めから勝ち目がなかった?
1942年12月1日に交渉決裂と判断した日本政府は中国との戦争を再開し、アメリカと戦争することを決意した。1942年には石油のストックが尽きていまい、危機的状況に追い込まれる。
画像:香港に進軍する日本兵(戦後-太平洋戦争の歴史)
アメリカ以外からもオランダ領土のインドネシアから石油は調達できたが、オランダはイギリスと同盟を組んでドイツ・イタリア連合軍と戦争している真っ最中。
それでも日本は、輸入している石油を2倍に増量してほしいとオランダに交渉した。
1935年・・・輸入量345万キロリットル。うち、オランダなど外国から114万キロリットル輸入(33%)
1937年・・・輸入量477万キロリットル。うち、オランダなど外国から124万キロリットル輸入(26%)
1939年・・・輸入量494万キロリットル。うち、オランダなど外国から49万キロリットル輸入(10%)
オランダは日本に対して「ドイツと同盟国の日本に分けてあげるわけがない!」と石油の輸出を拒否する。
しかもオランダは、アメリカから支援を受けているイギリスの同盟国であるから、アメリカと交渉決裂した日本の要求に応じるわけがないのである。
中国との戦争は長期化するばかりで燃料不足に陥り、ドイツの同盟国としてオランダとイギリスから敵視される日本。さらにアメリカとも不仲になり、4ヵ国から敵視されることになった。
日本は中国との戦争に加え、アメリカやイギリス・オランダと戦争することになった。この一連の流れが太平洋戦争が勃発した理由であり、日本が広島と長崎に原爆を投下される発端となったのだ。
エネルギーや軍事力など「初めから日本に勝ち目はなかったのでは?」と言う人もいるが、そんなことが問題ではない。「多くの犠牲者がいて、被ばくという傷痕が残り、日本国憲法が定められた」それが真実。
過ちは過ちであり、元に戻すことはできない。さて、日本国憲法の主旨を理解している人は、日本にどれくらいいるだろうか。憲法は戦争の傷跡であり、教訓である。今一度、理解しておきたいところだ。
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